柚木佑美(ゆうきひろみ)

柚木佑美(ゆうきひろみ)
俳優 演技トレーナー

柚木佑美 簡単プロフィール

21才、NHKドラマ人間模様でデビュー。以来、TV・映画・舞台で幅広く活動。 代表作:TV「NHK広島発特別ドラマ・帽子」、映画「パッチギ2 Love&Peace」など。 また、任意団体「アクターズワークス」でサンフォード・マイズナーシステムを使って演技トレーナーとしても活動。NHK朝の連続テレビ小説の新人トレーニング、新国立劇場演技研究所常任講師など。

2022年7月12日火曜日

ダルカラードポップ 第25回本公演 「岸田國士戦争劇集」

 後輩の演出家さんの劇団・ダルカラードポップの公演「岸田國士戦争劇集」。

https://www.dcpop.org/vol25/#more-8697

この情報が流れて来た時、直感的に「見たい!」と思った。


作・演出、主宰の谷賢一くんには申し訳ないが、今回は芝居を見に行った…というより、戦争について考えたくて行った・・・のかもしれない。

ウクライナ戦争からの中国の脅威
このタイミングでの選挙
そして安倍元総理の暗殺

やっとアフターコロナの社会経済が少しばかり回るようになった矢先のこの事態で、多くの人々がそうだと思うが、なんだか心がフワフワして地に足が付かない。
なんか大げさだが、自分なりに今の日本について、気持ちを落ち着けて心をまとめたかった。
 

岸田國士の短編3作「動員挿話」「戦争指導者」「かへらじと」で構成された、「岸田國士戦争劇集」。
観劇後の正直な感想。
やっぱり見て良かった!
改めて、岸田國士の戯曲・言葉はすごかった。


「戦争劇集」なのだが、岸田國士はどれも「人間の営み」を描いていることを改めて実感した。
日本が日露戦争から第二次世界大戦へ突き進む中で、死と隣り合わせであってもやはりそこにいる人間は今日を生きていて、物を食べ、泣き、笑い、人を愛し、日常を送っているということが、生き生きと伝わってきた。
現代の作家ではない、1890年(明治23年) ~1954年(昭和29年)
まさに日露戦争前から第二次世界大戦後 を生きた作家だ。
戦争の間近で生きている人々の人生・生活がとてもリアルだった。
「動員挿話」などは、もう何十回も読んで( レッスンで使ったシーンなど100回以上?)、次のセリフも知っている。なのに圧倒的に迫ってきた。

今回の作品を見て「生きているということが『希望』なのだ」と感じた。
○○だから、○○があるから、○○できるから、ではなく、ただ「生きて」いることそのものが『希望 』 
「かへらじと」の最後のシーンが、それを伝えてくれた。

そう思ったら、何だか安心した。落ち着くことができた。

普通に日常を生きることが偉大だ。
「生きる」ことそのものが「強い」ことだ。
毎日、何があっても、ちゃんと食べて、寝て、人と生きる。大切なこと。
それが、人の心を落ち着かせる。
きっと不安や恐れや狂気から遠ざけてくれる。
そんな気がした。


コロナという疫病があり、他国ではあるが信じられない戦争が起こり、物価高騰、不況、そしてこの日本で銃を使って暗殺。
ましてや暗殺された元総理は、ウクライナ戦争の後「核シェリング」を口にした人物。
今のこの状態を「すでに戦前」という人もいる。
先日の選挙では、「安倍元総理の弔い合戦」などという政治家もいた。
で、岸田総理がいきなり「憲法改正」って!

ちょっと待て
ちょっと待て
 
いや、安倍元総理にはもちろん哀悼の意を持っている。このような事は誰であれ起きてはならない卑劣な犯罪だ。
「憲法」も変えるべきものは変えなくてはならないのだろう。
でも、ちょっと待て!
それとこれは違うぞ!!!
ちゃんとした成熟した民主主義国家の政治家というのなら、今のこの国民の空虚な心に届ける言葉をちゃんと選ぼうよ!!!

実体のない不安が周囲を包み込む。
我々庶民がしなくてはならないと思ったこと。
落ち着け
落ち着け
そのためには、毎日ちゃんと食べてちゃんと寝てちゃんと生きる。
 
先人の体験を届けられる演劇ってやはり凄い。
たくさんの人に今、このような芝居を見てほしい。
実際に戦争を生きた天才の言葉を、多くの人にリアルに感じてほしい。
振り返った時、「今」が「戦前」にならないように。
 
 

この文章を書いている途中、89歳の母から電話があってちょっと話した。
彼女は晩年、近所の小学校や中学校に招かれて子供たちに戦争体験を話して聞かせるボランティアをやっている。
母は私に戦争の時の話をし(何度も聞いたが・・・)、私もこの芝居の話をした。
母は電話の最後に「幸せに生きてくださいね」と言った。